営農だより2016年11月
果樹苗木の植付け
高品質な果実をつける果樹を育てるには、その第一歩として、適切な時期に適切な栽植密度で苗木を植え付けることが重要です。ほ場によって適切な栽植密度などは異なりますが、ここでは基準となる植え方を紹介します。
栽植様式と栽植密度
●栽植様式
果樹の栽植様式には、正方形植え、長方形植え、五点形植え、並木植えなどがあります(図1)。スピードスプレーヤーなどを走らせたい場合は長方形植えまたは並木植えがオススメです。
1 果樹の栽植様式の例
●栽植本数
樹をまばらに植えると面積当たりの収量が少なくなり、反対に密に植えると果実に日が当たりにくくなるので果実品質が低下します。最適な10aあたりの栽植本数は果樹の種類・品種などによって異なり、およその基準は表のとおりです。
表 栽植距離と10a当たり最終栽植本数のおよその基準
神奈川県作物別施肥基準より試算
●計画密植栽培
苗木を植えても、すぐに成木と同じ量の果実は収穫できないため、最初から表の栽植密度で植えてしまうと、初期の収量が低くなってしまいます。そこで、植付け当初はある程度密植にし、樹が大きくなるにつれて段階的に間伐していきます。これを計画的密植栽培といいます(図2)。
表 栽植距離と10a当たり最終栽植本数のおよその基準
図2 計画的密植栽培による栽植と間伐の例
植付け時期
●落葉果樹
カキやウメなどの落葉果樹の植付けは、落葉後から次の発芽前までの樹が生長を止めている期間(休眠期)に行います。植付け時期は落葉後に行う秋植えと、発芽前に行う春植えがあります。春植えの場合は、新根の生長が始まっている場合がありますので、植付けの際に根を傷めないように注意してください。
●常緑果樹
温州ミカンやレモンなどの常緑果樹は、発芽前の春植えが基本となります。秋植えすると冬の寒さで落葉したり、枯死したりする危険があるため避けてください。なお、春枝の生長が終わった梅雨期に植え付けることも可能です
植付け方法
●植え穴と苗木の準備
植え付けた後に、根を早く広く張らせるため、なるべく大きな植え穴(150㎝四方、深さ50㎝程度)を掘りましょう。掘る時に肥沃な表土とやせた下層土を分けて積み上げます(図3)。 やせた下層土には堆肥などの有機物、石灰、リン酸などを投入し、よく混ぜておきます。有機物などを混ぜた下層土は植え穴に戻しますが、このときに足で軽く踏みながら入れましょう。
苗木は乾燥しないように、植え穴を掘った後すばやく植え付けますが、このときに苗木を掘り上げたときにできた太い根の切断面を見てみてください。もし切断面がささくれていたら、切断面がなめらかになるように少し切り返すと新根の発生がよくなります。
苗木の掘り上げによって根が切れるため、地上部との均衡を保つために枝も切り返しましょう。枝を切り返す高さは地上60~80㎝です。このとき病気におかされた部分がないか確認しましょう。もしあれば切除するか薬剤で消毒しておきます。
図3 植え穴の堀り方
●植付けの方法
さて、ここから実際の植付け方法を説明していきます。先ほど穴に戻した下層土の上に苗木を植え付けますが、苗木の根の周囲に肥沃な表土を入れるようにしてください(図4)。接ぎ木部が隠れてしまうような深植えは避けましょう。接ぎ木部が土に隠れてしまうと、穂木から根が出てしまい、枝の伸びが悪くなってしまいます。表土を入れたあとは根の乾燥を防ぐため、また、根と土をよくなじませるため、たっぷりとかん水をします。
図4 苗木の植え方
●植付け後の管理
植付け後は根の乾燥を防ぐために覆土をしたり、株元をワラや黒マルチで被覆したりします。覆土するときも接ぎ木部が隠れないように注意しましょう。また、苗木が風で倒れないようにしっかりと支柱で固定してください。
おわりに
植付け作業は以上になりますが、作業が終わったあとも、乾燥しないように定期的にかん水するようにしてください。
果樹は上手に栽培すれば何十年も収穫が続く作物ですので、最終的に適切な栽植密度になるように、事前によく計画を練ってから植え付けましょう。
バックナンバー
- 2024年11月号
土壌診断を活用して
施肥コストを削減しましょう - 2024年10月号
保水資材「EFポリマー」の紹介 - 2024年9月号
秋冬野菜の害虫の紹介と対策 - 2024年8月号
植物を元気にするサプリメント
「ソイルサプリエキス」 - 2024年7月号
IPMを活用しよう - 2024年6月号
極早生タマネギ栽培のポイント - 2024年5月号
盾で守る!無機銅フロアブル!
「クプロシールド」のご紹介 - 2024年4月号
JAよこすか葉山
お勧め機種のご案内
2023年度バックナンバー
- 2024年3月号
スイカ病害防除のポイント - 2024年2月号
ヒヨドリの生態と農業被害対策 - 2024年1月号
畑の雑草と粒状除草剤の使い方
~粒状除草剤の使用方法と作用メカニズム~ - 2023年12月号
キャベツの菌核病に効果的な
農薬散布 - 2023年11月号
トウモロコシの早出し技術・
トンネル早熟栽培 - 2023年10月号
海からの恵みで品質向上! - 2023年9月号
ソラマメ栽培の基礎 - 2023年8月号
冬春野菜の播種、
定植時の予防について - 2023年7月号
畑の残渣処理~分解促進資材を使い、
土壌病害の軽減や有機物の活用を~ - 2023年6月号
堆肥や緑肥などの有機物を投入して
畑に腐植を供給しましょう! - 2023年5月号
地力アップ&肥料代削減に
「緑肥」を栽培しよう - 2023年4月号
JAグループ神奈川推奨型式のご案内
2022年度バックナンバー
- 2023年3月号
ダイコン栽培における1粒播種のメリット・デメリットの比較 - 2023年2月号
ジャガイモ栽培 基礎 - 2023年1月号
白ナス袋かけ栽培について - 2022年12月号
キャベツの菌核病対策について - 2022年11月号
アシストスーツで農作業の負担を削減! - 2022年10月号
秋冬野菜の病気について - 2022年9月号
『暑さ』『乾燥』による萎れを
独自の酢酸技術で守る! - 2022年8月号
堆肥のススメ - 2022年7月号
超極早生「タマネギ マルチ」栽培について - 2022年6月号
ブロッコリーの品種を使い分けよう~品種比較結果~ - 2022年5月号
コナガ防除の混用散布 - 2022年4月号
JAグループ神奈川推奨型式のご案内
2021年度バックナンバー
- 2022年3月号
GAPの手法を取り入れて農業経営のリスクを減らしましょう~生産履歴の記帳と保管~ - 2022年2月号
かんきつ類の病気防除~適切な時期の作業で、きれいなミカン・レモンの収穫を~ - 2022年1月号
土壌診断の必要性~自作圃場の土壌を知り作物栽培に備える~ - 2021年 12月号
腐植酸肥料の活用~腐植酸の補給で元気な土づくり~ - 2021年 11月号
牛ふん堆肥を配合した指定混合肥料の販売開始について - 2021年 10月号
農薬散布時の注意事項 - 2021年 9月号
キャベツを守るために〜定植後の病害虫対策〜 - 2021年 8月号
高温乾燥によるキャベツのカルシウム欠乏について - 2021年 7月号
新しいケイ酸肥料〜試験事例から見るおすすめ商品〜 - 2021年 6月号
ニンジンを作ってみませんか〜品種比較結果〜 - 2021年 5月号
野菜の省力施肥~追肥のいらない基肥一発肥料の施用~ - 2021年 4月号
JAグループ神奈川推奨型式のご案内
2020年度バックナンバー
- 2021年 3月号
農業分野におけるドローンの技術開発と活用 - 2021年 2月号
これから播ける春どり香味野菜 - 2021年 1月号
霜に気をつけましょう - 2020年 12月号
ケイ酸肥料について - 2020年 11月号
拍動かん水装置導入による夏季果菜類(ナス、ピーマン等)の栽培 - 2020年 10月号
殺虫剤のRACコードについて - 2020年 9月号
地域ぐるみの鳥獣被害対策~私たちの野菜を守る~ - 2020年 8月号
ニラサラダスナップ栽培について - 2020年 7月号
秋ジャガイモの栽培と貯蔵について - 2020年 6月号
抑制エダマメ栽培のポイント - 2020年 5月号
MA包装について - 2020年 4月号
JAグループ神奈川 推奨型式のご案内